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ドキュメンタリーの鬼才・森達也監督ロングインタビュー

森達也監督が初の劇映画に挑む 家族と郷里を愛する自警団が虐殺を犯した「福田村事件」とは?

テレビ局が「福田村事件」を敬遠した理由

――関東大震災直後に「朝鮮人虐殺事件」が関東各地で次々と起き、そんな状況下で起きた「福田村事件」。マスメディアが大きく取り上げなかったこの事件を、森監督は2003年に刊行した著書『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』(晶文社)で触れていました。

 20年前のテレビディレクター時代に「福田村事件」のことを知って、ドキュメンタリーにできないかと思って、テレビ局を回ったんですが、ダメでした。それで『世界はもっと豊かだし―』に、「福田村事件」のことを書いたんです。なぜ、今になって映画化されるのかといえば、その本を歌手の中川五郎さんが読み、「1923年福田村の虐殺」という歌にしたんです。その歌をたまたま、今回の映画の企画者である荒井晴彦、プロデューサーを務める井上淳一が聴き、映画にしようと動き出した。荒井は監督作『火口のふたり』(19年)、僕は『i-新聞記者ドキュメント-』で「キネマ旬報ベスト・テン」の授賞式に呼ばれ、控室が一緒でした。「怖い人だから目をなるべく合わせないようにしよう」と思っていたんですが、若輩者の自分から挨拶しないといけないだろうなと声を掛けたところ、「福田村事件」の映画化について切り出されたわけです。配給会社「太秦」で進められていた企画に、僕が乗った形ですね。

――20年前、森監督はテレビでのドキュメンタリーを考えていたが、断念することに。

 その頃の僕は、テレビの報道番組の仕事をいくつかやっていたんです。番組内の特集として取り上げられないかと提案したんですが、「これはちょっと……」と断られました。

――デマによって起きた朝鮮人虐殺事件に加え、被害者である行商団は香川県の「被差別部落」出身だったことがテレビ番組では扱えなかった理由でしょうか?

 リベラルなプロデューサーでも「部落問題も絡むのか……」と戸惑った反応でした。その気持ちは分かります。今回の映画でも大きな課題だけど、「日本人なのに殺された」というレトリックにしてしまうと、「朝鮮人は殺してもいい」とのレトリックに直結しかねない。複雑といえば複雑です。報道番組の限られた時間枠では、扱うことは難しいでしょう。しかも、20年前ですから「部落差別」をテレビで取り上げるのは、今よりも難しかった。もちろん、テレビでもできなくはないと思います。でも、テレビの場合は効率が最優先される。もしかすると、右翼や解放同盟から抗議がくるかもしれない。報道番組の限られた尺で扱う企画で、なぜそんなリスクを負わなくちゃいけないんだ、ということになるわけです。リスクヘッジの考えです。全面的に同意はもちろんしないけれど、悩む理由は分かります。(2/6 P3はこちら

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