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ドキュメンタリーの鬼才・森達也監督ロングインタビュー

森達也監督が初の劇映画に挑む 家族と郷里を愛する自警団が虐殺を犯した「福田村事件」とは?

加害者側の視点から事件を描くことの大切さ

――俳優を演出することに関してはどうですか?

 大学生の頃に自主映画を撮っていましたし、テレビでも深夜ドラマ『デッドストック~未知への挑戦~』(テレビ東京系、17年)の最終回の演出を手がけています。なので、ドラマを演出するのが初めてというわけではないんです。オムニバス映画『最も危険な刑事まつり』(03年)の一本『アングラ刑事』も撮っています。ですが、ちゃんとした長編映画を演出するのは初めてになりますね。

――森監督は『ドキュメンタリーは嘘をつく』(テレビ東京系)などで、ドキュメンタリー作品にも演出があることを常々公言されてきました。

 「演出がなく、客観的に撮られているのがドキュメンタリー」なんてことはありえません。とは言っても、ドキュメンタリーとドラマは似て非なるものがあるのも確かです。(立教大学で同期だった)黒沢清監督が「時折、自分は役者にセリフを与えて、それをどう言うのかをドキュメンタリーとして撮っている気がする」ということを言っていました。なるほどな、と思いました。まぁ、これまでドキュメンタリーでやってきたことを一度リセットするのではなく、培ってきたことは生かすことができるんじゃないかと思っています。

――当然ですが、妊婦や子どもたちもいた行商人の一行が、自警団に虐殺されるシーンも描かれることに。

 もちろん。今回はプロデューサーも配給会社も強者がそろっているので、(R指定を避けるために表現を抑える)心配はしていません。

――セクシャルな場面もあるそうですね。

 多少はあります。当時の村人たちの生活も描きたいと思っているので。今回の映画は加害者の視点にウエイトを置きたいと考えているんです。普通、この手の映画は被害者の視点から描かれることが多いけれど、僕は被害者側と同様に加害者の視点にも比重を置きたい。

――虐殺に加担したのは村の自警団たち。家族や郷里を愛する人たちだった。

 そんな普通の人たちが、虐殺に加担してしまった。ウクライナに従軍しているロシア兵も、ミャンマーで市民に発砲した兵士たちも、ユダヤ人を大量虐殺したナチス兵も、きっと家に戻れば、良き夫であり、優しい父親でしょう。凶暴で冷血だから、虐殺できるわけではないんです。でも、そんな家族を愛する普通の人たちが、とんでもない過ちを犯してしまう。そのことは歴史が証明しています。人間はそういう生きものだと認識することが大事です。僕が最初に撮ったドキュメンタリー映画『A』(97年)もそうでした。オウム真理教の施設に入ってカメラを回したところ、そこにいる人たちは善良で真面目な人たちばかりだったんです。

――森監督の著書『虐殺のスイッチ』(出版芸術社)では、サバクトビバッタが群れをなすことで相変異し、凶暴化する「蝗害」について触れています。この傾向は人間にもあると。

 僕だって、その場にいたら虐殺に加わっていた可能性はあります。でも、被害者になることを想像するほうが楽なんですよ。だから、みんな被害者に感情移入する。もちろん、被害者側の心情に想いを寄せることも大切です。でも、なぜ加害者たちが事件を起こしたのかを解明することも、とても重要だと思うんです。(4/6 P5はこちら

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