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ドキュメンタリーの鬼才・森達也監督ロングインタビュー

森達也監督が初の劇映画に挑む 家族と郷里を愛する自警団が虐殺を犯した「福田村事件」とは?

負の歴史を記憶しないと、人間は同じ過ちを繰り返す

――「福田村事件」は残された文献が少なく、脚本にまとめるのは容易ではなかったと思います。

 香川県の人権研究所には、事件に関する資料が残されていました。被害者の末裔の方も存命でお話を聞きました。事件が起きた野田市でも、事件現場近くの霊園には追悼慰霊碑が建てられています。事件が起きた村で「この悲劇を風化するべきではない」と考えた人たちが建てたようです。もちろん、慰霊碑を建てることに反対した人もいたようです。温度差はあって当然です。多くはありませんが、丹念に探せば資料や手がかりは残されています。当時どんな会話が具体的に交わされたかなどは分からないので、そこは想像することになります。今回はベテランの佐伯俊道が脚本を書き、昨年からいろいろと話し合い、完成台本に仕上げてもらっているところです。

――歴史から黙殺されてきた小さな声を拾い集めて、ひとつの作品にしていく。映画づくりの意義を感じます。

 負の歴史を記憶しなければ、人間は同じ過ちを繰り返すだけです。歴史を学ぶ意味は、同じ失敗を繰り返さないためだと僕は考えています。失敗の歴史から目をそむけたら、それは歴史ではなくただの年表です。成功体験しか記憶しないならば、傲慢ですごく嫌な人間になりますよね。国だって同じです。荒井晴彦が言ってましたが、「ハリウッドだったら、この事件で5~6本は映画を作っているよ」と。僕もそう思います。米国では人種差別や先住民虐殺をテーマにした作品がたくさん作られています。ドイツは他国が作るホロコーストやナチスの映画に率先して協力しているし、自分たちも作っている。韓国では最近、『1987、ある闘いの真実』(17年)や『タクシー運転手 約束は海を越えて』(17年)などが大ヒットしている。でも、日本では「朝鮮人虐殺事件」すら映画化されていないんです。

――韓国映画ですが、『金子文子と朴烈』(17年)が関東大震災時の東京の様子を描いていました。

 良い作品です。朝鮮人虐殺そのものがテーマではなかったけれど。実は日本でも、『大虐殺』(60年)という天知茂主演映画が新東宝で公開されています。関東大震災直後の混乱の中で、朝鮮人虐殺事件だけでなく、社会主義者たちも殺害された「亀戸事件」「甘粕事件」なども描いた作品です。以前の日本ではそんな映画を大手が製作することができていた。でも、今はありえないでしょう。ネットを見れば、「朝鮮人虐殺はなかった」なんて声がいっぱい上がっている状況です。

――プロの脚本家が書いたシナリオをベースに、プロの俳優たちを演出することに。絵コンテなども用意するんでしょうか?

 どんなイメージで撮影現場に臨むのか分かるように、絵コンテもある程度は用意するつもりです。でも「ある程度」です。あまり絵コンテに縛られないほうがいいとアドバイス受けたので。脚本づくりも含め、スタッフやキャストと一緒に共同作業することは初めてのことなので、とても面白いですよ。ドキュメンタリー制作は、基本ひとりか二人でやっていましたから。劇映画はチームプレイ。やっぱり人間は集団で生きる生きものです。自戒を込めて実感しているところです。(3/6 P4はこちら

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