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稲田豊史の「さよならシネマ 〜この映画のココだけ言いたい〜」

『ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV』が「大人」になって捨てた不都合な過去

『ロッキーVSドラゴ』は単なる再編集じゃない!巧妙に大人化した「42分」の追加の画像1
©︎2021 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

「未公開シーン42分」の謎

 日本で1986年に公開された『ロッキー4/炎の友情』(85)は、当時の小中学生男子にたいそう愛された。80年代の男の子トレンドで言えば、ジャッキー・チェン、田宮模型のラジコン、ビックリマンなどと同じ並びに位置すると言っていい。

 『ロッキー4』の物語は至ってシンプルだ。オリンピック金メダリストでソ連(当時)の最強アマチュアボクサー、イワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)が訪米し、ロッキー(シルベスター・スタローン)との試合を望む。ロッキーは渋るが、過去の栄光が忘れられないロッキーのかつてのライバル・アポロ(カール・ウェザース)は、代わりに試合を受ける。しかし引退後5年もたっているアポロはドラゴにまったく歯が立たず、惨敗のあげく帰らぬ人に。ロッキーは親友の弔い合戦としてモスクワに飛び、完全アウェイの中でドラゴと試合して勝利する。たしかに、小学生にでもわかる単純明快なストーリーだ。

 そんな、「THE おじさんホイホイ」なノスタルジックコンテンツが、監督・脚本・主演を務めたスタローン自らによって再編集が施され、『ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV』として生まれ変わった。

 本作最大の売りは、当時撮影されたものの使用されなかった42分にも及ぶ未公開シーンの追加だ。主なところでは、アポロがドラゴ戦に挑む意志をロッキーに表明するシーン、ロッキーの妻・エイドリアンがアポロを心配し胸中を推し量るシーン、アポロの葬儀まわり、ロッキーのソ連での試合について議論する米国ボクシングコミッションの会議など、要は試合以外のドラマ部分を厚くした、というわけである。

 ただ、計算が合わない。『ロッキー4』の尺は91分で、追加された未公開シーンは42分。しかし『ロッキーVSドラゴ』は94分しかない。つまり、ものすごい量のシーンをカットしているのだ。

オトナ化した『ロッキー4』

 カットされたシーンでもっともわかりやすいのが、「ポーリーのロボット」だ。ポーリーとはエイドリアンの兄でロッキーとは腐れ縁の男。『ロッキー4』冒頭、ロッキーはポーリーに、人間サイズで自走式のお手伝いロボットをプレゼントする。いかにもロボット然した声色でしゃべる、80年代風ハイテクホビーのイメージを雑に具現化した(しかし小中学生受けは良さそうな)ガジェット。『ロッキーVSドラゴ』では、このロボット登場シーンがすべてカットされている。

 たしかに、今このシーンを見ると相当に恥ずかしい。ポーリーとのやり取りはコメディタッチで微笑ましいとは言えるが、ボクシングとは何の関係もないし、むしろ人の死を取り扱う深刻なストーリーには徹底的にミスマッチだ。

 スタローンはこの再編集版を公開するにあたり、インタビューで「過去の自分のミスを修正したかった」「『ロッキー4』を作った頃の俺は、今よりかなり薄っぺらだった」などと語っている。インタビュー全体をざっくりまとめるなら、「子供っぽすぎた内容を、大人仕様に改めた」であろう。

 そう、『ロッキーVSドラゴ』は、オトナ化を施した『ロッキー4』なのだ。

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