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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.554

“カメ止め”上田慎一郎監督の才能は本物なのか? 噓と救済をめぐる物語『スペシャルアクターズ』

マルチ商法にハマって借金を負った上田監督

新興宗教「ムスビル」の教祖・多磨瑠(淡梨)とその父・大和田(三月達也)。教義がチープなほど、人は騙されてしまう。

 前作『カメ止め』では、ゾンビ映画をワンカメ・ワンカットで撮るという無茶ぶりの中で、ディレクター役の濱津隆之やゾンビから逃げ惑うアイドル女優役の秋山ゆずきたちが迫真の演技を見せた。ギリギリの極限状態に追い込まれたことで、無名俳優たちは眠っていた能力を発揮した。演じている本人たちが考えていた以上の熱演となり、『カメ止め』は劇場を感動の渦に巻き込んだ。演じることによって、出演者たちの人生も大きく変わった。

 俳優ならずとも演じることは誰もが経験することだろう。仕事先でのプレゼンや恋人へのプロポーズなど、うまくいくかどうかは別にして大事な席での言動は芝居がかったものになりがちだ。そういったハレの場に限らずとも、気の弱い人間は自己暗示をかけ、新しい自分を演じることで難しい局面を乗り切るしかない。最初は手探り状態の演技であっても、現実社会の中で演じ続けることで、リアルなものへと変わっていく。また、ウディ・アレン主演作『ボギー! 俺も男だ』(72)の主人公のように、架空のキャラクターに悩みを打ち明ける人もいるだろう。人は時に自分自身を鼓舞し、別キャラを演じることで、窮地を脱することもある。

 里奈を救いたい一心だった和人だが、このミッションを成功させることは彼自身が救済されることにもつながっていく。これは本作を撮った上田監督にも当てはまることだ。上田監督は20代のころは映画づくりへの熱い想いが空回りし続け、マルチ商法にハマって300万円の借金を背負うなどの失敗を繰り返した。だが、失敗も含めたそれまでの人生経験を生かすことで、『カメ止め』はダメ人間たちが奇跡を呼ぶ、珠玉の人間ドラマとして実を結んだ。上田監督は過去の失敗にへこたれずに、映画を撮り続け、その結果として映画の神さまに微笑んでもらうことに成功した。

 人は悪質な噓やデマに踊らされ、深く傷つくこともある一方、舞台や映画といったフィクションの世界の架空のキャラクターたちに励まされ、勇気づけられることもある。“演技”と“救済”というテーマ性を明確に打ち出したことだけでも、上田監督にとって『カメ止め』に続く『スペシャルアクターズ』を完成させたことは、とてもスペシャルな体験だったのではないだろうか。

(文=長野辰次)

 

『スペシャルアクターズ』

監督・脚本・編集・宣伝プロデュサー/上田慎一郎

出演/大澤数人、河野宏紀、富士たくや、北浦愛、上田耀介、清瀬やえこ、仁後亜由美、淡梨、三月達也、櫻井麻七、川口貴弘、南久松真奈、津上理奈、小川未祐、原野拓巳、広瀬圭祐、宮島三郎、山下一世

配給/松竹 10月18日より全国公開中

(c)松竹ブロードキャスティング

http://special-actors.jp

 

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最終更新:2019/10/31 14:47
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