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佐久間由衣と奈緒がモラトリアムの悲劇に遭遇する映画『君は永遠にそいつらより若い』

佐久間由衣と奈緒の関係性が尊いシスターフッド映画

佐久間由衣と奈緒がモラトリアム期間の悲劇に遭遇する映画『君は永遠にそいつらより若い』の画像3
(C)「君は永遠にそいつらより若い」製作委員会

 本作は近年の映画では1つの潮流となっている「シスターフッド映画」でもある。スターフッドとは女性同士の連帯や絆を示す言葉であり、映画では親友というだけでなく、姉妹または姉妹に近い関係性を指すことも多い。この2021年になってからも、分断された世界の再生を描くディズニーアニメ『ラーヤと龍の王国』や、東京で暮らす女性たちの姿を追った『あのこは貴族』など、女性同士の関係性が尊く感じられるシスターフッド映画が世に送り出されていた。

 この『君は永遠にそいつらより若い』では、佐久間由衣と奈緒という実力派の若手俳優2人が、シスターフッド映画としての面白さと魅力を最大級にまで押し上げているのは間違いない。

 佐久間由衣演じる主人公は、処女であることを「他の呼び方にするべきじゃない?」と自虐的なギャグっぽく提案したり、誰にでも惚れるような素振りもある(実際に好きになっている)変わり者で、「就職するまでの期間限定」で髪を派手な色に染め上げている、表面上は悩みなんてなさそうにも見える女性だ。

 だが、彼女の明るさは、実は孤独の胸の内や、魅力のある女性として見られていないような、焦燥感の裏返しのように思えてくる。佐久間由衣というその人自身が持っている親しみやすさ、そしてわずかな表情の変化があってこそ、その繊細さが伝わるのだ。佐久間由衣は『”隠れビッチ”やってました。』(2019)でも「表面上は明るく人生を楽しんでいるように見えるが、実は心の中では……」な役柄を熱演していたが、今回はさらなる複雑な役に見事にハマっていた。

 奈緒が演じる1つ年下の女の子は、人付き合いがうまくなさそうな、ある意味では主人公以上の変わり者だ。彼女もまた表面上は親しみやすく思える時もあるのだが、後に明かされる痛ましい過去を鑑みても(そうでなくとも)「暗い影」を垣間見る印象もあった。奈緒は10月8日公開予定の『草の響き』(2021)でも、心のバランスを崩した夫への複雑な想いを抱えている妻という、やはり暗い影を感じさせる役を演じているので、合わせて観てみてもいいだろう。

 彼女たちの関係性が「正反対な性格であるようで、似ているところもあるからこそ惹かれあった」ように思えることも含めて、心から佐久間由衣と奈緒の共演で良かったと思うことができた。

 また、脇を固める小日向星一、笠松将、葵揚、森田想も鮮烈な印象を残す。彼らもまた「女性2人だけの物語」では終わらせない、「他者や社会とどう関わって生きていくのか」という主題に必要不可欠な存在だった。映画を観終わってみれば、劇中の誰もがこの現実のどこかにいる人物のようにさえ思えてくるし、その俳優としての活躍も追ってみたくなるだろう。

爆発する行動のカタルシス

佐久間由衣と奈緒がモラトリアム期間の悲劇に遭遇する映画『君は永遠にそいつらより若い』の画像4
(C)「君は永遠にそいつらより若い」製作委員会

 今回の映画は津村記久子による原作小説から、大胆な換骨奪胎がなされている。小説はもっと多くのキャラクターが織りなす群像劇という印象もあったが、映画では女の子2人の視点により焦点を当てていて、削られた(または膨らまされた)エピソードも多い。

 これにより、期せずして知ることになる身近な人の死や、女の子の痛ましい過去のショッキングさも増していた。原作の淡々とした味わいを保ちつつも、ドラマティックさを底上げした、映画化のための理想的なアプローチができていたと言っていいだろう。

 そして吉野竜平監督は、この物語について「内へ内へと向かって悩んでいた主人公が、様々な人との出会いや出来事を経て、最後は外へと向かって爆発する行動を起こします」とも語っている。映画でも原作でもこのことは一致しているが、やはり映像としての「爆発する行動」は、佐久間由衣の見事な表情の変化もあいまって、やはり「力強く」感じられるものだった。

 なお、(映画だけでも十分に伝わるとは思うが)原作ではタイトルの『君は永遠にそいつらより若い』に込められた意味が、はっきりと綴られてもいる。ぜひ映画の前でも後でも、原作を読んでみてほしい。「モラトリアム期間に遭遇する悲劇からの救い」を描いた、宝物のようなシスターフッドの物語であることが、よりわかるだろうから。

『君は永遠にそいつらより若い』
2020年製作 配給:Atemo
監督/吉野竜平 原作/津村記久子 脚本/吉野竜平
公式サイト:https://www.kimiwaka.com
(C)「君は永遠にそいつらより若い」製作委員会

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2021/09/17 12:34
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