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スタンダップコメディを通して見えてくるアメリカの社会 #21

デイヴ・シャペル、史上最高コメディアンのネトフリ新作が差別的ネタでボイコットに!?

自らのジョークで、結果的に友人を追い詰めてしまった…

 実は19年に発表した『どこ吹く風(Sticks and Stones)』の中でのジョークが元で、自殺者が出るという悲劇が起きた。

 自殺したのはダフネさんというトランス女性。デイヴ自身の友人でもあった。2年前、デイヴのトランス・ネタにネットは炎上、批判が巻き起こった。その際、友人でもあり、コメディアンでもあったダフネさんはTwitterでデイヴを必死に擁護した。しかしそれに対し、トランスジェンダーコミュニティからダフネさんに対する誹謗中傷が相次ぎ、その苦痛でビルから身を投げてしまったのだ。  本作『これでお開き』で、悔しさと怒り、そして悲しみを滲ませ、時折目を潤ませながらダフネさんとの友情を語ったデイヴ。相当な覚悟を持って「最後の」舞台に立ったことがうかがえる。

 その「覚悟」は1時間12分の公演時間のうち、実に45分間をトランスジェンダー・ネタに費やしたことからも見て取れる。今回の騒動の擁護派の中にも「さすがにトランスジェンダー・ジョークに執着しすぎだ」という意見は多い。

 これまでの作品で、炎上沙汰があっても概ね好意的な評価だったメディアも、今回ばかりは軒並み低評価を並べた。

 主な論調としては、「トランスジェンダーを“パンチダウン”した」というものだった。

 この「パンチダウン」ということばは「ある属性の人々を、一段上の立場から見下して攻撃すること」を意味する。そこにはデイヴ・シャペルという圧倒的な影響力を持ち合わせる大御所コメディアンが、異性愛者という「マジョリティ」の立場で、性的マイノリティを笑いのネタにした、という意味合いが内包されているのだろう。実際、「トランスジェンダーの人は……」とひとくくりにしてジョークを展開することは軽率とも言える。

「デイヴが『黒人』というマイノリティの立場から、白人というマジョリティサイドにいるトランスジェンダーをジョークにしているから構わないのではないか」という意見も散見されたが、それでは「トランスジェンダーであると同時に黒人」という人々の存在にあまりにも無自覚と言わざるを得ない。 筆者自身米国で連日、アジア人という「マイノリティ」のスタンダップコメディアンとして舞台に立つが、「マイノリティ」という立場が、いかなる批判的な意見からも自身を守れる「安全圏」だとは思っていない。たとえ「マジョリティ」をネタにする「パンチアップ」だとしても、そこに細心の注意を払う時代になっていることは重々承知しているつもりだ。

 だからこそ、今回もデイヴ自身、これらのジョークで大きな批判が巻き起こる心当あたりがあったのではないか、と思わずにいられない。もちろんデイヴのみならず、ネットフリックスの製作チーム然り。 だとすれば、彼がここまでトランスジェンダー・ジョークにこだわった理由とは何か。そしてそもそも何に「ケリ」をつけに舞台に上がったのだろうか。

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