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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.613

永瀬正敏主演作『BOLT』は原発事故がモチーフ…“失なわれた未来”を取り戻すことはできるのか?

事務所を失ってしまった濱マイク

永瀬正敏主演作『BOLT』は原発事故がモチーフ…失なわれた未来を取り戻すことはできるのか?の画像3
いちばん最初に撮影された「GOOD YEAR」。ここからオムニバス化する企画へと広がった。

 ディストピア化した街で、孤独に生きる名前のない男は、何者だろうか? 永瀬演じるこの男は、かつては横浜の古い映画館の二階に事務所を構えていた私立探偵・濱マイクの成れの果ての姿と解釈することもできそうだ。濱マイクの事務所があった古い映画館、横浜日劇は2007年に取り壊されており、彼の帰る場所はすでに消滅している。寄る辺なき男となった濱マイクは、いつしか名前も失い、原発のある街に流れ着いたのかもしれない。名前のない男は、音信が途絶えた古い友人のようにも思える。

 ずっと探偵映画を撮り続けてきた林海象監督が、『BOLT』の中で名前のない男に探させているものはなんだろうか? その答えは、この映画を観た人の数だけあるが、答えのひとつとして「失なわれた未来」を挙げることもできるはずだ。では、すでに失なわれた未来はどうすれば取り戻すことができるのか。別れた女の心を取り戻すことと同じくらい、これは難しい。

 名前のない男は、決して見知らぬ他人ではない。この映画を観ている私たち自身でもあるに違いない。夢みるように眠っていられた時代は、すでに終わってしまった。シビアな現実と向き合うことでしか、新しい未来を開くことはできない。この映画を観た者は自らが探偵となって、未来に続く扉を探し続けるしかない。
(文=長野辰次)

永瀬正敏主演作『BOLT』は原発事故がモチーフ…失なわれた未来を取り戻すことはできるのか?の画像4

『BOLT』
監督・脚本/林海象 美術/ヤノベケンジ
出演/永瀬正敏、佐野史郎、金山一彦、後藤ひろひと、テイ龍進、月船さらら、吉村界人、佐々木詩音、大西信満、堀内正美、佐藤浩市(声)
配給/ガチンコ・フィルム 12月11日(金)よりテアトル新宿、19日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国公開
(c)林海象、ドリームキッド、レスパスビジョン
http://g-film.net/bolt

永瀬正敏主演作『BOLT』は原発事故がモチーフ…失なわれた未来を取り戻すことはできるのか?の画像5

デジタルリマスター版『夢みるように眠りたい』(初版1986年)
監督・脚本/林海象 美術/木村威夫
出演/佳村萌、佐野史郎、大竹浩二、大泉滉、あがた森魚、小篠一成、中本龍夫、中本恒夫、十貫寺梅軒、遠藤賢司、草島競子、松田春翠、吉田義夫、深水藤子
配給/ドリームキッド、ガチンコ・フィルム 12月19日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
(c)映像探偵社
http://g-film.net/dream

最終更新:2020/12/11 13:00
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