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米国の農地を買いあさる中国企業の脅威…近くに空軍基地、「孫氏」の謎の経歴

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写真:新華社/アフロ

 米国で、中国人による土地取得を制限しようとする動きが加速している。中国に本拠地がある企業による農地の購入を厳しく規制する法案が上院で可決されたほか、今年、33の州議会で中国人による土地購入を禁じる法案が提出されている。スパイ気球問題以降、中国を安全保障上の脅威として受け止める傾向が強まったことが背景にあるが、人種的平等に反する動きだとして反発する声も強い。

 上院で7月に可決された法案は、国防予算の大枠を決める年次国防予算法案の修正案として提出された。中国やロシア、北朝鮮、イランに本拠地のある企業などが米国の農地を購入しようとした場合、米当局が厳しく審査し、取引内容によっては売買を差し止めるという内容だ。7月25日の採決では賛成91、反対7という圧倒的多数で可決された。

 修正案可決の背景には、中国の企業が広大な農地を購入し、地元住民とトラブルになるケースが相次いでいることがある。テキサス州では、中国共産党と関係が深いとされる中国人実業家、孫広信氏が経営する会社が2016年以降、広大な牧場を次々に購入した。サンアントニオの西、メキシコとの国境沿いに位置するバルベルデ郡で購入した土地は5万2600ヘクタールにのぼり、同郡の面積の約7%を手に入れたことになる。

 孫氏はこの地で、タービン46基を有する風力発電施設を建設する計画だが、電力供給を中国企業に頼るということに地元住民は安全保障面での危機感を募らせている。

 孫氏が購入した土地の東側には米軍のラフリン空軍基地がある。空軍最大級のパイロット訓練基地として知られる。テキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員らは、重要基地のお膝元に中国企業が土地を所有して事業をすることに強く反発している。

 孫氏が、米国生まれの中国系米国人なら、ここまで反発はなかったのかもしれない。孫氏の経歴がテキサス住民の不安をかきたてた。孫氏は1962年、中国・新疆ウイグル自治区のウルムチで靴職人の息子として生まれた。中国最大の研究機関である中国社会科学院などで学んだ後、人民解放軍に入隊し1989年、大尉の立場で退官した。直後に投資会社を設立し、ウルムチにシーフードレストランやカラオケバー、ボーリング場などを経営した。

 新疆ウイグル自治区では、中国当局がイスラム教徒や少数民族への弾圧を強めているが、その分、重要なポストにいる役人が頻繁にウルムチを訪れる。内陸部のウルムチでは新鮮な魚介類は珍しい。孫氏が経営するシーフードレストランには政治エリートや大物ビジネスマンが度々訪れ、孫氏はここで中国共産党との深いつながりを築いたとされる。

 孫氏は人民解放軍の退役将校を自社の幹部として雇用し、軍とのつながりも強固なものとした。ソ連崩壊直後には原油や天然ガスの採掘機器をロシアから輸入し、中国の国営企業などに販売。エネルギー分野への進出の足場を固めた。

 1993年に贈賄の疑いで捜査を受けたが、これを機に一段と中国共産党内への食い込みを図ったといわれる。所有する企業内に中国共産党の支部が存在するとの報告もある。

 米農務省によると、中国の企業などが所有する米国の土地の面積は約15万5372ヘクタール。そのうちの約34%が孫氏の所有である。孫氏が計画している風力発電施設の権益はスペインの企業が買い取ったが、孫氏の影響力は依然として強く、テキサス州は開発を許可していない。

 ノースダコタ州ではグランドフォークス空軍基地の近くに、中国政府に近いフーフェングループが149ヘクタールの農地を購入した。トウモロコシ粉の製造工場を建設する計画だ。

 グランドフォークス基地は空軍の主力部隊である第319偵察航空隊が駐留し、諜報や監視、偵察任務の拠点になっている。地元議会は、フーフェングループの存在が安全保障上の脅威になっているとして、工場建設計画を許可しなかった。

 中国企業による土地購入を規制する地方レベルでの動きは強まっている。ワシントンポストによると規制を目的とした法案が今年、33の州議会で提出されている。法案数は81にのぼり、既にアラバマ州、アイダホ州、バージニア州などで成立している。

 中国企業が購入した農地で中国政府がスパイ活動を仕掛ける可能性があり、米国と敵対する企業が過剰な農地を取得すれば、米国内の食料供給が危険にさらされると考える米国人は増えている。

 ただ、外国企業などが購入した米国の農地のうち、中国勢が購入したのは1%程度だ。カナダやオランダ企業などが保有する土地に比べれば、足元にも及ばない面積だ。こうした中で中国への規制を強めるのはアジア系住民の差別につながりかねないとして、法案に反対する動きも強まっている。

 米国には、マイノリティーの土地所有を妨げてきた長い歴史がある。奴隷制度が存在した時代には奴隷による土地所有は認められなかった。1900年初頭から第二次世界大戦まではアジア系米国人を標的にした外国人土地法により、日系米国人は土地や財産を没収され、収容所に送られた。

 中国の脅威を見逃すことはできないが、いたずらに脅威を煽ると米国の民主主義が崩壊する。こと土地の話になると、冷静な判断は難しくなる。

言問通(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆

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最終更新:2023/09/05 20:00
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