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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.114

妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』

angelwars01.jpg精神病院に隔離された5人の少女たちは、”妄想力”を武器に現実世界に戦いを挑む。
(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINENT INC. AND LEGENDARY PICTURES

 天使なんか、この世にいない。少女はそうつぶやく。天使が助けてくれないなら、自分で自分を救うしかない。自分自身が天使になって、戦うしかない。ザック・スナイダー監督の新作『エンジェル ウォーズ』は精神病院に閉じ込められた少女が、唯一の持てる武器”妄想力”によって現実世界に戦いを挑むファンタジーアクションだ。少女の頭の中で紡がれた神話的ストーリーが空想と現実を隔てた分厚い壁をこじ開ける。セーラー服の少女に襲い掛かる巨大な鎧武者、第一次世界大戦の戦場に突如現われるモビルスーツ、火を吐くドラゴンと大型戦闘機との空中戦……実写とCGが融合した妄想世界を、『300〈スリーハンドレッド〉』(07)、『ウォッチメン』(09)で成功を収めたスナイダー監督が誰にも気兼ねすることなく思う存分に描いた。

 主人公のベイビードール(エイミー・ブラウニング)は最愛の母を病気で失い、嘆き悲しんでいた。ずっと天使に祈りを捧げていたのに、自分の祈りは通じなかったのだ。母がいなくなった後の現実世界では、母が死んだ衝撃以上の試練が待っていた。色欲まみれの継父は、ベイビードールと幼い妹を手込めにしようとする。ベイビードールが身を守るために手にした拳銃から飛び出した弾丸は、非情にも継父ではなく妹に命中してしまう。天使なんか、どこにもいない。ベイビードールは精神病院の隔離病棟に送り込まれ、5日後にはロボトミー手術(前頭葉切除)を受けることになる。

 精神病院に足を踏み入れた時点から、ベイビードールの妄想はすでに始まる。病院職員への絶対服従を強いられる隔離病棟が、現実を受け入れられないベイビードールには妖しい売春宿に映る。家族を失った自分は売春宿に売り飛ばされ、5日後には大富豪とベッドを共にしなくてはならないと思い込む。売春宿には大きな舞台があり、娼婦たちはそこでダンスを披露し、男たちに選ばれていくのだ。ダンスの腕前を見せるように命じられたベイビードールは目を閉じ、流れる音楽に合わせてイマジネーションを膨らませる。そこには誰も見たことのない世界が広がっていた。空想の世界で、ベイビードールはセーラー服姿の戦士に変身し、悪しき者たちと戦う。そして賢者(スコット・グレン)から「5つのアイテムを手に入れれば、この世界から解放される」という啓示を授かる。同じ閉鎖病棟に入院しているスイートピー(アビー・コーニッシュ)ら4人の少女たちも、ベイビードールの発する波長と同調し、5つのアイテムを求めて共に戦う。

angelwars02.jpgベイビードール(エミリー・ブラウニング)は
自由を勝ち取るため、5つのアイテムを求めて
戦い続ける。

 リメイク作『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04)で監督デビューし、『300』『ウォッチメン』とグラフィックノベルの映画化でヒットメーカーの仲間入りしたザック・スナイダー監督にとっては、初のオリジナルストーリーとなる。ベイビードールたちが舞い降りる戦場は、日本の寺院だったり、ゾンビ兵士がうようよする第一次世界大戦時ふうの塹壕だったり、懐かしい未来社会だったりと、限りなくコミックやゲームの世界に近い。モビルスーツのデザインは日本のアニメに影響されたそうだ。押井守監督のメタフィクション的空間の中で、井口昇監督っぽい妄想トレインがハリウッド予算を燃料に大暴走するという趣きとなっている。ご都合主義な展開が繰り広げられるが、そこは少女の妄想ワールドなので全然OKなのだ。といっても、ただの妄想バカ映画では終わらず、”フィクションの持つ力は現実を変えることができるか”という映画が抱える普遍的テーマが主軸となっている。

 非力な少女が空想力を武器に現実と戦うという設定には、ギレルモ・デル・トロ監督の代表作『パンズ・ラビリンス』(06)がある。『パンズ・ラビリンス』はスペイン内戦を時代背景に、ファシズムを受け入れない少女が自分の生み出した空想世界に殉じていく哀しい物語だった。『エンジェル ウォーズ』はロボトミー手術が盛んに行なわれていた1960年代の精神病院が舞台となっているが、このフェンスで覆われた隔離病棟は、未来という出口の見えない現代社会のメタファーだろう。閉鎖病棟で職員たちに抑圧されているベイビードールたちは、生きづらさを抱える現代の若者の姿でもある。

 自分のやりたいことをやろうとすれば、協調性のない非社会的人間との烙印を押され、周囲に合わせていると個性がない、自主性がないと罵倒される。マジメで純真な人間ほど、実社会に出るとボロボロにされてしまう。嫌でも自分の殻に篭らざるを得ない。劇中でベイビードールがとった行動は妄想から生み出されたものであって、社会的ルールから逸脱したものだ。しかし、ベイビードールがイマジネーションを武器に、己の殻をブチ破って現実世界に突破口を開こうとする姿勢は、同じ病棟で息を潜めていた他の少女たちに生きる希望を与える。

angelwars03.jpgベイビードールの見る空想世界は現実と密接に
リンクしている。彼女の目には、病院のセラピ
ストが売春宿のボスの愛人に映る。

 ベイビードールたちが暴れ回る狂気の世界を見ていると、一人のアーティストの名前が思い浮かぶ。”アウトサイダー・アート”の代表的作家であるヘンリー・ダーガー(1892~1973)だ。ヘンリー・ダーガーは不幸な生い立ちの中で、きちんと絵画を学ぶ機会も環境も与えられなかったが、清掃員として働いた後はアパートの自室に篭り、1万5,000ページにも及ぶ世界最長の絵物語『非現実の王国で』を60年以上にわたって描き続けた。”非現実の王国”では”ヴィヴィアン・ガールズ”と名付けられた男性器を持つ美少女たちが無慈悲な大人たちを相手に壮絶な戦いを繰り広げた。ヘンリー・ダーガーが部屋いっぱいに溜め込んだ膨大な量の作品群は、最晩年にアパートの家主が気づくまで誰にも知られず、まったく世間に評価されることがなかった。だが、ヘンリー・ダーガーは”非現実の王国”でヴィヴィアン・ガールズと共に戦場を駆け巡っていたのだ。歴史上のどんな英雄よりも、過激で情熱的な生涯をヘンリー・ダーガーはアパートの一室で過ごしている。もしかするとベイビードールたちが活躍する戦場は、ヴィヴィアン・ガールズたちが戦う”非現実の王国”とどこかで通じているかもしれない。

 ベイビードールの破天荒な行動は、ついに現実世界でひとつの奇跡を呼び起こす。そしてベイビードールの戦いは、映画が終わっても幕が降りることはない。なぜなら、映画を観た観客の頭の中で、ベイビードールの新しい戦いが始まるからだ。ザック・スナイダー監督は、ひとりの少女が天使になる瞬間を描いている。
(文=長野辰次)

angelwars04.jpg
『エンジェル ウォーズ』
脚本・監督・製作/ザック・スナイダー 脚本/スティーブ・シブヤ 出演/エミリー・ブラウニング、アビー・コーニッシュ、ジェナ・マローン、バネッサ・ハジェンズ、ジェイミー・チャン、カーラ・グギーノ、オスカー・アイザック、ジョン・ハム、スコット・グレン
配給/ワーナー・ブラザース映画 4月15日(金)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
<http://www.angelwars.jp>

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こういうヒーロー、マジで切望。

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最終更新:2015/03/27 13:08

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