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 >  >   > 元”おはガール”安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.87

元”おはガール”安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』

baka01.jpg『おはスタ』出身の人気チャイドルとして活躍した安藤聖が大学、
社会人を経験後に初主演した『バカがウラヤマシイ』。かわいい顔して
「バカは選択肢がないから、悩まなくていい」なんて過激発言が飛び出す。

 アントニオ猪木の名言に「バカになれ」があるが、”燃える闘魂”猪木にケンカを売るようなタイトルではないか。10月9日(土)より公開される映画『バカがウラヤマシイ』。キビシイ氷河期が続く”就活”をテーマに、20代のスタッフ&キャストが生み出した新鮮味に溢れるコメディだ。ヒロインは、ベッキー、蒼井優、平井理央アナといった人気者を次々と輩出した『おはスタ』(テレビ東京系)の元”おはガール”安藤聖。一時期は芸能界を離れ、フツーに大学生、社会人として生活を送っていた安藤だが、女優への道が断ちがたく、小劇場などで地道にキャリアを積み、カムバックした。

 『バカがウラヤマシイ』のヒロイン・希(安藤聖)は、美人で頭の回転も良く、何でもそつなくできてしまう。学生時代はずっと成績優秀で通してきた希は就職活動も余裕で楽勝とタカをくくっていたのだが、現実社会の厳しさは学校内で常にトップだった彼女の想像を上回るものだった。人気企業、有名企業はことごとく不採用となる。面接会場ではうまく場の空気を読んで、面接官に対して100%の模範解答をしているのに。なんで? どーして? 生まれて初めて人生でつまずいた希は、自分の全人生、全人格を否定されたような失意に打ちのめされる。

 結局、希は誰も知らない地味~な会社に腰掛け入社し、再就職できるチャンスを待つことに。なんで私がこんな地味な会社に? 憤懣やるせない希は、街で「そこの輝いている彼女、芸能界に興味ない?」とスカウトマンに声を掛けられる。やっぱり、見る目がある人には私の良さが分かるのよ~♪ 思わず、芸能プロダクションへの登録料としてなけなしの有り金を振り込んでしまう。当然ながら、その芸能プロダクションは存在しません。まさか自分がブーム遅れの振込め詐欺に遭うとは……。泣きっ面にハチ。弱り目に祟り目。13日の金曜日は仏滅だった。エイリアンに寄生されたジェイソンに襲われたようなダブルショック! 就職活動に失敗して以来、どんどんドツボへと堕ちていく希。

 不幸のスパイラルに陥った希は、地味な会社の中でもさらに地味な資料室で社史の編纂をしている先輩社員の曽根さん(古舘寛治)に出会う。開口いちばんの台詞が「仁丹、食べる?」。年頃の女の子は仁丹なんか食べません。見るからにうさん臭い曽根さんだが、「週末だけでも、アルバイトやんない?」と希に声を掛けてくる。ヤバい匂いがぷんぷんするけど、金欠状態の希は背に腹は換えられない。希が曽根さんのアパートを訪ねると、そこには”花おじさん”なる看板が掲げてあった。曽根さんが代表を務める怪しげなこの会社、友達や親戚が少ない訳ありな新郎or新婦のためにニセの友人として結婚披露宴に出席したり、お見合いパーティーの賑やかしとして宴会を盛り上げるのが仕事。よーするに”サクラ”の派遣事業ですな。

 ギャラはけっこーいいのだが、まぁ曽根さんをはじめとする”花おじさん”のメンバーたちの仕事に対する取り組みのアバウトなこと。失敗してもヘラヘラと笑っている曽根さんたちに希は腹を立てるが、派遣先ではお得意のそつのなさを生かして、サクラ役をかいがいしく演じる。人にはおおっぴらに言えない秘密のアルバイトだけど、自分の能力を生かせる場所を見つけ、希はちょっぴりうれしい。失敗しながらも懲りずに仕事を楽しんでいる”花おじさん”のメンバーの影響を、希は少しずつ受けていくようになる。

baka02.jpg新入社員の希(安藤聖)は先輩社員の曽根
(古舘寛治)から「仁丹、食べる?」と声
を掛けられる。コメディ映画の新鋭・沖田修一
監督の『このすばらしきせかい』(06)、
『南極料理人』(09)で味のある演技を
見せていた古舘が本作でも好演。

 本作の脚本&監督は、専門学校「東京ビジュアルアーツ」映画学科の学生・鋤崎智哉くん、24歳。スタッフも同校に籍を置く学生たち。下北沢の短編映画館トリウッドと東京ビジュアルアーツが協力して立ち上げた「トリウッドスタジオプロジェクトの」シリーズ第5弾として製作されたもので、鋤崎監督の実体験をベースにしている。明治大学という有名大学に入学し、ずっと苦労知らずで生きてきた鋤崎監督は友人と真顔で「バカがウラヤマシイよ」とこぼしていたそうだ。ところが映画の希同様に就職活動は思うようにいかず、自分が本当にやりたいこと、本気になれることは何かを突き詰めて考えた結果、明治大学卒業後に東京ビジュアルアーツに再入学し、映像製作の道を志すことになった。『バカがウラヤマシイ』は鋤崎監督のちょっとばかり早すぎる、そしてかなり恥ずかしい自伝的ストーリーなのだ。

 ヒロイン・希に選ばれた安藤聖の半生も映画には投影されている。8歳のときにミュージカル『アニー』で舞台デビューし、”おはガール”として人気者だった安藤は、その後も『ひとりでできるもん!』(NHK教育)や昼ドラなどに出演。しかし、次第にテレビの仕事からフェードアウト。大学進学後は芸能界から離れ、フツーにイベント制作会社に就職していた。08年2月の「EX大衆」をめくると、チャイドルのその後を追った特集で安藤は社会人時代について語っている。「正直、かなり仕事のデキる子だったんですよ(笑)。でも裏方をやってると、『何で私が前に出てないんだろう?』とか『絶対、私のほうが司会がうまい』って思っちゃうんです。それまで漠然とした想いがハッキリしたものになって、会社をやめて本格的に女優をやろうと決心したんです」。退職後の彼女は、劇団ポツドールなどの舞台を中心に女優業を再開している。結局、いくら才能があってもルックスに恵まれていても、本人が本気モードになってない限り、何も始まらないし、人の心は動かないということですな。

 ちなみに『バカがウラヤマシイ』を上映する下北沢のトリウッドは、古着屋の2階にある座席数47席という本当に小さなミニミニシアター。シネコンに行き慣れている人はびっくりするくらい、こじんまりした空間だ。本作のエグゼクティブ・プロデューサーでもある大槻貴宏支配人は、4,000万円の借金を背負って99年にゼロからこの映画館を造っている。開館10周年を迎えた09年、無事に借金を返済。その間、『純喫茶磯辺』(08)、『さんかく』(10)の吉田恵輔監督、『白夜行』など話題作の公開を控える深川栄洋監督、『ほしのこえ』(02)、『雲のむこう、約束の場所』(04)の新海誠監督といった人気監督を世に送り出してきた。個人経営で映画館を運営するなんてかなり大変なはずだが、大槻支配人は鼻歌でも歌っているかのように、いつもヘラヘラ顔で笑っている。『バカがウラヤマシイ』に出てくる”花おじさん”に雰囲気がちょっぴり似ている。効率至上主義のシネコンとは異なる、小さな小さな映画館があることを知っているだけでも、公園の片隅で四葉のクローバーを見つけたような幸せを感じさせるのだ。
(文=長野辰次)

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『バカがウラヤマシイ』
監督・脚本/鋤崎智哉 出演/安藤聖、古舘寛治、山本剛史、鈴真紀史、播田美保 製作・配給/トリウッドスタジオプロジェクト(東京ビジュアルアーツ、トリウッド) 10月9日(土)より下北沢トリウッドにてロードショー公開
<http://ameblo.jp/baka-ura>

くたばれ!就職氷河期

自分が悪いのか、社会が悪いのか。

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