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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.128

この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』

azemichi01.jpg田舎の女子中学生ユーキ(大場はるか)がハンディを乗り越えて、
ダンス特訓に励む『あぜみちジャンピンッ!』。
浜崎あゆみへの楽曲提供で知られる長尾大(D・A・I)が
音楽を担当。(c)アイマックス

 15歳の少女・ユーキは、自分の胸の中で何かが弾けるのを感じた。繁華街の大型ビジョンから、プロのダンスチームのPVが流れるのを見た瞬間のできごとだった。ユーキは聴覚障害があり、そのときどんな音楽が流れていたのかは分からない。でも、ダンサーたちがリズムカルに自分の体を自在にしなやかに動かしている姿が、ユーキの中でずっと眠っていたものを目覚めさせたのだ。ユーキはさっそく大型ビジョンで流れていた人気ダンスチーム”RIP GIRLS”のDVDを手に入れ、自宅で視聴する。音が聴こえないので、ボリュームをMAXにした上でスピーカーを直接床に置き、体でその振動を感じる。これだ。ユーキがずっと探していたものは、このビートなんだ。うれしくなったユーキは、見よう見まねでDVDの映像に合わせて体を動かす。ユーキは自分の体が初めて自分のものになったような気がして、笑いが止まらない。新潟県魚沼地方を舞台にしたダンス少女の青春ストーリー『あぜみちジャンピンッ!』はこうして始まる。

azemichi02.jpg聾学校の校舎の屋上でクラスメイトたちと
昼食を摂るユーキ。ダンスに夢中なユーキは、
友達の手話が目に入らない。

 ユーキは母ひとり娘ひとりの家庭で育った。母が懸命に働いてくれるお陰で、生活自体には不自由していない。聾学校は小学部と中学部が併設されており、クラスメイトたちは小学部からずっと一緒で、みんな仲良しだ。ユーキは小学部の子どもたちの面倒見がいいと先生たちの評判もいい。でも、優等生のユーキはずっと何かが足りない気がしていた。それは父親がいないせいか、聴覚障害のせいか、田舎で暮らしているせいなのかはよく分からない。ダンスに目覚めたユーキは、近所の空き地でラジカセを鳴らしながら練習している女の子たちのアマチュアダンスチーム”Jumping Girls”の様子を遠くから眺めるようになる。彼女たちは障害を持たない普通の女の子たちのダンスチームだ。ユーキは眺めるだけで、それ以上は距離を縮めることはできずにいた。ある日、不思議なことが起きる。Jumping Girlsのリーダー・麗奈が「ダンス、好きなの?」とユーキに声を掛けてきたのだ。麗奈はなぜか手話ができた。麗奈に手を引かれたユーキは、みんなの前で一度見ただけのダンスを再現する。頭でなく、体で動きを覚えるユーキは飲み込みが誰よりも早かった。かくして、ユーキはJumping Girlsの一員に迎え入れられる。家庭や学校以外で初めての仲間ができた。ユーキはうれしくて、たまらない。ユーキの前に広がる田んぼがキラキラと輝いて見える。

azemichi03.jpg麗奈(普天間みさき)を中心にしたダンス
チーム”Jumping Girls”。地元の大会で入賞
して、全国大会出場を目指す。

 『あぜみちジャンピンッ!』で主人公のユーキを演じるのは、2008年の撮影時は15歳だったジュニアアイドルの大場はるか。女優&サインボーカルダンサーとして活動する大橋ひろえの手話指導を受けて、聴覚障害を持つダンサーを演じた。障害を持つ者と持たない者との交流が重要なモチーフとなっているが、むしろ本作のいちばんの主題は感情表現を初めて自分のものにできた少女の純粋な喜びだろう。それまで母親(渡辺真紀子)に「いつもニコニコ笑ってなさい」と教えられてきたユーキだが、ダンスと出会うことで心の躍動や揺れ動きを全身を使って表現する喜びを知る。台詞のないユーキの感動を、大場はるかがハツラツと演じる。4カ月間にわたるダンス&演技レッスンを経て、新潟ロケに臨んだそうだ。本作が3作目となる若手の西川文恵監督は10代を中心にしたキャストたちとクランクイン直前にぶつかり合うこともあったが、全編を瑞々しく描いている。映画の完成度を問うよりも、成長過程にあるスタッフ&キャストの初々しさを楽しむ作品かもしれない。

 ユーキが通う聾学校の描写も新鮮だ。授業中、先生が黒板に向かっていると、女子生徒たちは手話で「放課後、みんなでモンジャ焼きを食べに行こうよ」と盛り上がる。手話なので授業中も私語し放題なのだ。小学部と中学部の子どもたちが休み時間に一緒に遊んでいる様子も、何だか楽しげである。また、本作は全編に字幕を入れるために全体的に画角が広めにとってあり、ユーキたちが暮らす新潟の田園風景がゆったりと広がり、田んぼの先には青々とした山々が連なっている。ユーキがあぜ道でジャンプすると、指先が青空まで届いてしまいそうだ。

azemichi04.jpgダンス大会でソロ部門に挑むことになった
ユーキ。ステージの上では誰も手を差し伸べ
てはくれない。

 やがて田んぼの稲が実り始め、ユーキのダンスはずいぶんと上達した。ダンス大会も近い。しかし、好事魔多し。聾学校で仲良くしていた下級生から「最近、聴者とばっかり仲良くしている」と裏切り者扱いされる。肝心のJumping Girlsでも問題が発生する。これまでユーキとチームメイトとの間に入って手話通訳をしてくれていた麗奈が足を痛めてしまい、チームを去っていく。自分をチームに誘ってくれた麗奈を失い、ユーキは急に不安になる。麗奈が去った後のチームを仕切るサブリーダーの美希は「ユーキが来てから、チームの和が乱れ始めた」とユーキに辛くあたる。家庭でも聾学校でも大事に大事に扱われてきたユーキにとって、経験したことのない大きな試練だ。それまでの爽やかなドラマ展開から一転して、女同士の嫉妬、八つ当たり、無視、無理解といったドロドロの不協和音が流れ出す。

 アイドル映画の巨匠チャン・イーモウ監督の『至福のとき』(02)では、イーモウ監督に見出された新人女優ドン・ジエが視覚障害の女の子ウーインを健気に演じた。工場が閉鎖されて行き場所のない失業者たちは、目の不自由な少女ウーインのためにマッサージパーラーを廃工場内に建てる。マッサージパーラーが廃材で組み立てた張りぼてなことはウーインには内緒だ。お金を持っていない失業者たちは紙で作ったニセ札を持って、張りぼてのマッサージパーラーに通う。とんでもない詐欺行為だが、ウーインは彼らの払うお金がニセ札だと知りながら、せっせとマッサージに励む。報酬がニセ札とはいえ、実家を離れて社会の中で初めて働くことがウーインには無性に楽しいのだ。本作のユーキも同じような体験をする。実社会で初めて厳しい洗礼を浴びたユーキは、美希たちに対して本気で怒る。それまで、困ったことがあってもニコニコ笑ってやり過ごしていたユーキにとって、生まれて初めて自分の中で眠っていた感情を爆発させた瞬間だった。ユーキはいつの間にか、Jumping Girlsの大人しいお客さまではなく、チームを左右する重要なメンバーとなっていたのだ。

 矢口史靖監督の『ウォーターボーイズ』(01)、『スウィングガールズ』(04)と同様に、ダンス大会の本番がクライマックスとなる。ユーキの心臓はもう最高にドッキンドッキンしている。ステージ上では、さらなるトラブルがユーキに降り掛かる。それでもユーキはチームメイトと体の動きをシンクロさせることで、自分の体の中にビートが流れるのを感じる。ユーキが感じるビートは特別ゲストとして来場したRIP GIRLSのメンバーや客席に集まったギャラリーたちにも伝播していき、ひとつの大きなグルーヴとなって会場全体を包みこむ。それはユーキだけの経験でなく、その場に居合わせたみんなが身震いするような新鮮なビートだった。
(文=長野辰次)

azemichi05.jpg
『あぜみちジャンピンッ!』
監督・原案・編集/西川文恵 脚本/田中智章 撮影/丸池納 手話監修/大橋ひろえ 音楽/D・A・I 出演/大場はるか、普天間みさき、梅本静香、上杉みあゆみ、兵藤さや、工藤あゆり、松本あやか、立花あんり、池田光咲、川元みく、山中友恵、小島あん、星れいら、小林寧子、天川紗織、遠藤雅、渡辺真紀子 配給/ヴォストーク 7月23日(土)よりポレポレ東中野にて公開 ※ポレポレ東中野では8月19日(金)まで平日朝8:50からの上映が900円均一になる「スーパーモーニング&シエスタ」を実施中
<http://www.aze-michi.com>

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青春。

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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX
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[第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』
[第123回]北国で93年間営業を続ける”大黒座”と町の記録『小さな町の小さな映画館』
[第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』
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[第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは”映画の神様”となった
[第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

最終更新:2012/04/08 22:38
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